第十五章
   コンラート・グレーベル、これまでの人生を語る


white snow houses

ハラウ村での水曜日は静かに過ぎていった。

ゾリコンからの二人の旅人は終日ブロトゥリーの家にいて、教会で起こったこれまでのことや、現在の状況、そして今後のことについて話し合った。そうした話し合いに加え、聖書の朗読や祈りの時ももった。

木曜の朝、マルクスは新鮮な空気を吸おうと、そして今日の天気はどんな具合かをみようと、ちょっとの間外に出てみた。と、一人の若い男が向こうから近づいてくるのを目にした。

特徴あるよろめいた歩き方には何かしら見覚えがあった。あっ、そうだとマルクスは思った。コンラート・グレーベルだ。

マルクスは彼を家の中に招き入れた。

コンラートの目の下にはくまができており、彼はくたくたに疲れ切っているように見えた。しかしひとたび話し始めるや、その言葉は確信に満ち、力強く、また鋭かった。

グレーベルとブロトゥリーが聖書のことを話している脇で、マルクスはじっと耳を傾けていた。彼は数回ゾリコンでコンラートを見かけたことがあったが、彼が話しているのを耳にしたのはこれが初めてだった。

コンラートが次から次に聖句を引用していくさまにマルクスは驚嘆した。彼は新約聖書をことごとく、暗記しているのだろうか。

こうして午前の時は瞬く間に過ぎていったが、マルクスは神の御言葉に対するグレーベルの知識ならびに、霊的な事柄に関する彼の洞察力に感銘を受け続けていた。

しかしそれ以上に彼の心を感動させたことがあった。それは己の信ずるものに対する、コンラートの全き献身であった。

彼の人生において、それ以外のすべては二次的なものであった。どんな犠牲を払おうとも、彼はキリストに対して忠実であろうとしており、また自分の理解したキリストの言葉に忠実であろうとしていた。

マルクスはこの男に魅了された。――そして彼の克己心に満ちた人格、教会に対する彼のビジョンに。

おそらく、人々の言っているように、グレーベルは、ゲオルグ・ブラウロックのような説教の賜物を持っておらず、フェリクス・マンツのようには議論に長けていないのかもしれない、――でも、『三人の中で、グレーベルが指導者だ』と言ったブロトゥリーの言葉は正しいと、マルクスはどういうわけか悟った。

コンラートはゾリコン教会の進展に深い関心を抱いていた。彼は友人であるヤコブ・ホッティンガーのことを訊いてきた。その他にも多くの質問がなされた。マルクスとフェリクスは自分たちの知っている限り、それらの質問に答えた。

夕方近くになって、会話は少しくつろいだものになり、コンラートは自分の少年時代のことを語り始めた。「僕が田舎育ちだってことは知らなかったでしょう?」

マルクスは驚いた。「いや。僕はてっきり君が都会育ちだと思っていたよ。だって、ほら、君のお父さんはヤコブ・コンラート議員、、、でしょう?」

「まあ、ある意味、僕は都会育ちなのかもしれない。」コンラートは言った。

「でも心の内では、素朴な田舎のあり方をなによりも慕っている。君の言うように、確かに僕はチューリッヒの貴族の子息ではある。でも僕は幼少時代のほとんどを、田舎で――グリューニンゲンで――過ごしたんだ。」

「グリューニンゲンだって?」
「そう、父はそこで十二年間、行政官をしていたんだ。そしてその間、僕たちグレーベル家はそこの城に住んでいた。」

キーナストはおしゃべりな男ではなかったが、今や興味にかられて頭をむくっともたげた。「僕のいとこたちがヒンウィルに住んでいて、、それで、君のお父さんがグリューニンゲンで行政官をしておられた時のことを覚えているよ。」

「それはおそらく僕の生まれる前のことだったと思う。」マルクスが言った。「でも僕にも一人姉があって、グリューニンゲンの向こうの、オベルウィンテルスールの近くに住んでいるんだ。僕自身は一度もそこへ行ったことはないけど。」

グレーベルは興味を示した。「お姉さんは何ていう名前?」
「姉はアルボガスト・フィンステルバッハと結婚しました。」

「うーん、知らないなあ。実際、オベルウィンテルスールは管轄の異なる領地だから。あそこに住まなくなってもう何年も経つけど、グリューニンゲン、ヒンウィル、バレッツウィルの下方一帯に住んでいる家族のことは、今でもほとんど知っているんだ。」

「グリューニンゲンを去ってからのことを僕たちに話してくれる?」とマルクスは頼んだ。「僕は、君が、そのー、どうやって、、、」

「どうやって僕が、さすらえる、町かどの一説教者になったか、、、そう尋ねたいんじゃない?」グレーベルはほほ笑んだ。
「そうなんだ。」

「話せば長くなるよ。」コンラート・グレーベルは考え深げな面持ちになった。

「ぜひとも僕はききたい。」マルクスはなおも食いさがった。
キーナストもそれに加わって言った。「ぜひ僕にもきかせてほしい。」

「それなら、かいつまんで話すとしよう。」コンラートは言った。彼は椅子に深々と身を沈め、ギュッと口を結んだ。

「僕の幼少時代は、たしかに君たちのそれとはかなり違っていると思う」と彼は話し始めた。「でもだからといって普通の仕事をしてこなかった訳ではないんだ。僕は州の中でも最良の家柄の一つであるコンラード家の長男として生まれた。

ありあまる財産と栄誉に囲まれて育ち、両親は僕の望むものなら何でも与えてくれた。両親は僕に非常な期待をよせていて、ヨーロッパ最高の教育を施そうともくろんでいた。特に、ただ一人の弟が死んでしまってからはなおさら、僕は家族の期待を一身に背負うことになったんだ、、、

コンラート・グレーベルは過去を追憶していた。「でもそれだけのものが与えられていながらも」と彼は悲しそうに物思いにふけっていた。

「父と母が僕に与えてくれなかったものも多かった。仕事のやり方について、両親は僕を訓練してくれなかったし、金銭を浪費せず、敬意を払うことについても教えてくれなかった。だから僕は人生の教訓を、きついやり方で、そして悲しい経験によって学んだんだ。」

しばらくして彼は続けた。「僕は勉学に興味をもち、大学生活を満喫した。ラテン語に加えて、ギリシャ語とヘブライ語も学んだ。父の足跡に倣い、すべてが将来のキャリアにおける僕の成功を約束していた。でも、そうする代わりに、僕は両親を失望させ、チューリッヒの落後者になってしまったんだ。」

ヨハン・ブロトゥリーは反論した。「でもそれだけが話の全部じゃないでしょう、コンラート。」
「ああ」とコンラードは認めた。「でも自分のことについて多言はしたくないんだ。」
「いいから、もっと我々に話しておくれ」とヨハンはせがんだ。

「大学での最後の年のことを話すが、これはいい話じゃない。」コンラートは言い、彼の顔に影が差した。

「僕は悪い連中の仲間に入ったんだ。僕はパリの大学に転校したんだが、そこで自分の世界はバラバラになってしまった。お酒、乱闘、ギャンブル、女――僕は瞬く間に堕落してしまった。

父がそのことを聞きつけて、ついに仕送りをやめたんだ。ヴァリダンという、ウィーンにいる僕の大好きな恩師――知っての通り、彼は今、僕の義兄でもあるんだ――も、そのうわさをききつけて、僕と絶交し、文通を金輪際やめると強い口調で言ってきた。さらに、だらしない生活を続けた挙句、僕はついに健康を害してしまった。現に、今でもその後遺症から完全には自由になっていないんだ。」

コンラートの声は低くなった。「僕は心身共にボロボロになった状態で、チューリッヒの家に帰ってきた。僕は自分自身に失望していた。両親と仲直りしたかった。実際、自分が結婚したいと思っていた彼女のことがなかったら、あるいは仲直りできていたかもしれない。

僕の両親はバーバラが平民階級出身だったので、この結婚に反対だった。そう、グレーベル家の人々は平民とは結婚しないからなんだ。」

「でも僕は彼女を心から愛していて、彼女以外の誰とも結婚できないって分かっていた。だから父が大使としての職務で出張している間に、僕たちは結婚手続きを遂行してしまったんだ。それを知った両親は怒りの余り、ほとんど僕を勘当しかねない有様だった。」

「その頃から、、、えーと、三年前になるかな、、、僕はウルリヒ・ツヴィングリと親交を持つようになった。僕はこれまでの人生において自分が引き起こしてきたメチャクチャな状態に苦悶を覚え、ほとほとうんざりしていたんだ。そして僕は彼の説教を興味を持って聞いた。そして一人で聖書を学び始めた。

その結果、僕の人生に大きな変化が起こった。自分がどんなに罪人であるかを認めることは難しくなかったし、今までとは違う何かをやってみよう、そして神に自分の人生を導いていただこうという心積もりもできていた。なにせ、自分自身でやってみた挙句に、これだけ大失敗をしてきていたからね。」

コンラードは黙り、しばしの間、誰もが無言だった。

それから彼は言った。「それ以降の僕の人生については、おそらく君たちは知っていると思う。神がご自身の道を僕に賜ってくださり、これまであらゆる罪を犯してきたこの自分を依然として受け入れてくださっていることに、ただただ感謝している。ここ数カ月僕の生活は容易ではない。特に、妻と子供たちと離れ離れになっていることは、、、」

コンラードは口ごもり、目からは涙が溢れてきた。それから彼は続けて言った。「僕の祈りは、神の御助けによって、――たとえ、死に至るようなことがあっても――信仰に固く立つことができるように、ということだ。」

「そ、そういう事になってしまうのだろうか」――マルクスを悩まし続けていたその問いへの答えを求めつつ――、彼はコンラードに問うた。「もしかしたらツヴィングリが今後僕たちの群れに加わるかもしれないっていう可能性はないのだろうか。」

「いや、残念ながらそうは思わない。」コンラードは首を振りながら言った。

「数年来、僕はツヴィングリという人を熟知している。多くの点で僕は彼を尊敬しているし、神への信仰を持つようになった過程で、実際、僕は彼に助けられた。僕はそれに対して今でも非常な恩義を感じている。

でも、彼は現在取っている自分の立場を、今後変えるようなことはまずしないと思う。彼はすでに自らの針路を決めてしまったんだ。僕たちは何度も何度も自分たちの群れに加わるよう、彼を説き伏せようとしたが、全ては無駄だった。」

「でも、今後、な、なにが起こるのだろうかって、僕は懸念しているんだ。」
「それについては、僕も何ともいえない。」コンラートは答えた。

「でも実際、僕たちは知る必要もないし、それについて心配すべきでもないと思う。僕たちの責務はただ一途に神の教会を建て上げ、忠実なしもべであることだ。

もし僕たちが誤解され、迫害され、もしくは信仰ゆえに殺されるようなことがあるとしたら、それはエルサレムにいた初代キリスト教徒の身に起こったこととまさに同じだ。

彼らの最大の敵が宗教人―ユダヤ人指導者たち――だったように、僕たちの敵もまた教会人だ。そしてこれがどうやら自分たちの宿命であるらしい。悲しいことではあるし、僕もどうしてそうなのか分からないけど、これが自分たちの道であるようだ。

彼らはわれらの主をも迫害し、ついには主を十字架につけたんだ。ましてや弟子がその師にまさるだろうか。師が迫害を受けたのに、弟子がそれを受けないことがあるだろうか。」

ヨハン・ブロトゥリーも加わった。「ほら、マルクス。我々の責務は、どんな代価を払おうとも、ただ一途に忠実であることだ。『どうしてこうなのか、ああなのか』と、目に見える現状をあまりにも憂慮したり、未来のことを考えすぎたりする必要はないんだ。

もちろん、福音のメッセージが遠くまで届き、神の教会が成長し、栄えていくというのが我々の希望であり、祈りだ。そして、このことが実現するか否かは、ある意味、我々が自分たちの任務に忠実であるかどうかにかかっていると思う。」

マルクスはうなずいた。それから彼は言った。「僕は若くもあり、信仰に入って間もない。僕としてはこれからもっと学んでいきたいって思っている。」

コンラートは再び話し始めた。「今日の現状だけを見て、未来のことをくよくよと思い悩むのは、あまりに人間的だと思う。

僕たちは皆、――教会がこれから五年のうちに、あるいは十年のうちにどうなっていくのだろうか、そしてその頃までに、僕たち一人一人はどうなっているのだろうか――って考えたことがあると思う。目下のところ、前途有望だと僕は思っている。神は働いておられる。そして福音のメッセージは広がっている。」

「ところで」とヨハンが言った。「シャフハウゼン市のことをまだあまり聞いていない。この数週間、どんな具合だったかい。フープマイアー博士はもっと好意的になっていたかい。」

グレーベルは、マルクスとキーナストの方に向き直り、説明した。「セバスチャン・フープマイアー博士は市の主任牧師なんだ。幼児洗礼が正しくないっていうことを彼は理解しているようだ。」

コンラートはブロトゥリーの方を向いて言った。「いや、ヨハン。彼は犠牲を払ってまで、この信念を貫こうという気構えはないように思う。この市には他にも興味を持っている者たちがいるんだが、彼らはなかなか決心しようとしていない。僕の旧友ド・コクも、もしかしたら、僕たちの元から離れ去るかもしれない。彼はツヴィングリと話しにチューリッヒに行ったんだ。」

「ああ、あの若いフランス人のことかい?」ヨハン・ブロトゥリーは尋ねた。

「そう。彼は好青年で、真理探究のため、ヨーロッパ中を旅しているんだ。数ヶ月前、僕はチューリッヒで彼に出会った。そして最近、彼はシャフハウゼン市にいた僕を訪ねてきた。洗礼に関して、フープマイアー博士に話した時、ド・コクは強力に僕を支持した。でも聞くところによると、どうやら今彼は違った風に考えているらしい。」

一同はしばしの間、押し黙った。しばらくしてキーナストが話し始めた。「わが友ヨハン。忘れてしまう前に言っておこう。フリードリー・シュマッヘルが君の予定を訊いてきた。危険を冒しても、ゾリコンに来ようと思っているかい。」

ヨハンはすぐに答えた。「もちろんゾリコンに行けたらどんなにいいか、、、でもほら、僕は州からの追放処分を受けているだろう。追放令が解除される前に戻ることはかなりのリスクだ。

もちろん、もし切実な必要があるのなら、危険を冒してでも行こうと思っている。しかし目下、神は僕がここに滞在することを望んでおられるように感じている。」

「君はどう、コンラート?」マルクスは尋ねた。「ゾリコンに来る予定はある?」

コンラートの答えもブロトゥリーのそれとほぼ同じだった。

「ゾリコンは、チューリッヒから目と鼻の先にあるから、そこに公然と姿を現すのは賢明じゃないと思うんだ。不必要な危険は避けるのが最善だと思う。もっとも、これが神の御心を行うのに妨げとなってはいけないが。今年の夏、自分が予定していることはこれなんだ。

――もし御心なら、そしてその時まで自分が生きながらえていたら、グリューニンゲン地方で福音伝道を行いたいって切に願っている。僕はそこの人々をかなりの数知っているし、彼らは聖書の教えに心開くだろうと思っている。」

影は地の上に長く延び、暗闇が立ち込めようとしていた。と突然、早足で家に近づく馬のひづめの音が外の通りからきこえてきた。乗り手がゆっくりと降りる中、鞍がギシギシ音をたてていた。ドアを叩く音がすると、ヨハン・ブロトゥリーは席を立ち、玄関に向かった。

すぐにブロトゥリーは戻ってきたが、彼の後には一人の身なりの良い客が続いていた。コンラート・グレーベルはすぐにこの客が誰かに気付き、彼の手を握り、歓迎の叫び声を上げた。「さあ、座りたまえ。ド・コク、どうしてここに?」

そうか、これが昼間話に出ていたあのフランス人なのだ!マルクスはこの客の整った顔をまじまじと見た。それはいくぶん青ざめ、やつれているようにみえた。もしくは深まるたそがれのせいで、青ざめてみえるのかもしれなかった。

「僕はちょうどチューリッヒから戻るところなんだ」とこのフランス人は答えた。「僕は道中、フープマイアー博士の召使にばったり会ってね、君がハラウにいるっていうことを彼から聞いたんだ。君に会いたかったので、直接シャフハウゼンに向かうんじゃなくて、ここに立ち寄ることにした。」

「そうか」とコンラート・グレーベルはさらなる説明を待っていた。

この若いフランス人は頭を手の中にうずめ、ため息をついた。「ごめん。僕、あんまり具合が良くないんだ。」彼はわびた。「どうやら熱病にかかったようだ。」彼の手はぶるぶる震えていた。

「お休みになりたいですか。それとも私たちの方で何かできることはありますか。」立ち上がりつつ、ヨハン・ブロトゥリーは尋ねた。「今晩はなんとしても、ここにお泊まりなさい。私が馬の世話もしますから。」

けだるそうに、客はうなずいた。それから決然とした風に背筋を伸ばした。マルクスは彼の目にギラギラとしたものを見た。

「僕は君と話したかったんだ、コンラート・グレーベル。なぜって、君はツヴィングリ卿のことで僕を欺いていたんだからね。彼について君が言っていたことは真実じゃなかった。この事に関し、自分の目が開かれたことをうれしく思う。ツヴィングリはできる限りの最善を尽くしているし、国のためにも最善をなしていることが僕には分かった。」

コンラートは何と答えるだろう。マルクスは、コンラードがはやる心を抑えているのをみた。それはもしかしたら客が本当にかなりの重病であることをみてとったからであるかもしれなかった。

しばらく間があった後、グレーベルはやさしくこう言った。「君がそのように感じていることを、僕は、とてもとても残念に思う。僕は君を欺くつもりはなかった。ただ、聖書の真理を指摘したかっただけなんだ。」

「とにもかくにも」とド・コクは言い返した。

「君の思い描いているような教会は、現実には機能しえないっていうことを君が早めに悟るように願う。もちろん、君のいうような教会は何もかも聞こえはいい。だが、僕たちは現実に向き合わなきゃいけない――あえてその教会に加入しない人々はどうなるのか。起こりうる結果はただ一つ――混乱、不法それに罪悪だ。」

それに対するコンラート・グレーベルの答えは穏やかだった。

「友よ。この事についてもっと議論したい。でも今晩はその時じゃない。君は旅疲れをしているし、病も軽いものとは思えない。もしかしたら明日の朝、気分が良くなるかもしれない。つっこんだ話し合いは、その時まで待とうじゃないか。」

「もし君がそう望むなら。」フランス人は答えた。ブロトゥリー夫人は彼の所に紅茶を運んできたが、彼はそれをゴクゴク飲んだ。それからもう一度彼は頭を上げた。「しかし、もう一つ、今晩君に言っておきたいことがある。きっと君にも興味深い話だと思う。」話し続ける彼の目は光っていた。

「君の選び取っている経路はただただ困難、牢獄、敗北に至るだけだ。ツヴィングリ卿はゾリコンの連中の無分別にかなり失望している。それに敵対するのは全く彼の望むところではないが、州の秩序を保つためには致し方ないということも承知している。

先週の日曜に、教会堂で行われた四十人の洗礼式の後、彼にはああするより他に選択肢がなかった、、、」フランス人は悪寒に襲われ、言葉を切った。

マルクス・ボシャートとキーナストは椅子から身を乗り出し、ヨハン・ブロトゥリーは再び立ち上がった。
「な、なにが起こったんだ?」マルクスは尋ねた。彼の心臓はドキドキしていた。

ド・コクは続けて言った。「昨日、ゾリコン村に強制捜索が入り、十九人が再び監獄送りとなった。」
「ああ、ああ、、」そうなるだろうと予測していたにもかかわらず、マルクスは驚きで息が止まりそうだった。

「誰が、、、名前を聞いたかい?」キーナストは尋ねた。

「名前は聞いていない。ただ、十九人が監獄送りにされたということ以外は。」フランス人は締めくくった。「すまないが、僕はもう休むことにする。」そうして彼はよろけるように椅子から立ち上がり、苦しげに咳き込んだ。ヨハンは彼を連れて部屋から出て行った。

それからの数分間、残った三人の男は茫然として黙りこくっていた。マルクスは床を見つめていた。ゾリコン教会は今後どうなるのだろう。十九人の囚人!誰が捕えられたのだろう。今回、彼らはどんな風に取り扱われるのだろうか。

マルクスはフェリクスの方を向いた。「ぼ、、、ぼくは、明日の朝、家に帰るのはどうかなって思うんだ。」

「安全だろうか?」フェリクスは尋ねた。「僕たちが村にたどりつくやいなや、村役人は僕たちをも拘束し、監獄送りにするんじゃないかな。」

「いや、そうは思わない」マルクスは言った。「目下のところ、当局はこれ以上逮捕することはないと思う。二月、彼らはそうしなかった。覚えているだろう。」
「はたしてそうだろうか。」キーナストは疑心暗鬼であった。そして興奮で震えていた。

コンラード・グレーベルが話し始めた。

「兄弟たちよ、勇気を出したまえ。これがまさに、今日の午後話していたことだ。『からだを殺しても、たましいを殺せない人たちなどを恐れてはなりません。そんなものより、たましいもからだも、ともにゲヘナで滅ぼすことのできる方を恐れなさい』と仰せられたイエスの言葉を心に留めようではないか。

人が僕たちのからだに及ぼすことのできる危害は、永遠においては全く取るに足りないことだ。彼らが僕たちのたましいに及ぼしえることが、自分たちの最大の懸念とならねばならない。」

ヨハン・ブロトゥリーはしのび足で戻ってきた。「彼はもうすでに眠りについた。」あの若いフランス人がいる寝室の方を手振りで示しながら、ヨハンは告げた。ブロトゥリーは腰を下ろした。

「ヨハン、どう思う?」マルクスは尋ねた。「キーナストと僕は明日家に帰るべきだろうか、それとももう少しここに滞在すべきだろうか。い、いえに帰るのは安全だろうか。」
「急いでいるのかい?」ヨハンは尋ねた。

「うん。この知らせを聞いて以来、もうゾリコンのこと以外何も考えられなくなった。少なくとも僕はそう感じている。」マルクスは言った。
「僕もだ。」キーナストは言った。

「僕としてはどうアドバイスしていいか分からないが、これに関して、祈ろうじゃないか。そして明日まで待って決定することにしよう。僕としては、あと二、三日長く、滞在してくれたらいいがと思っているよ。」

「僕もだ」とコンラード・グレーベルは言った。「明日の晩、ここハラウで伝道集会を開くつもりなんだ。そのために君たちが残ってくれたらいいなと思っている。」
「考えてみます。」キーナストは言った。

マルクスは家に帰りたくてたまらなかった。レグラにいとまを告げてから、もう何年も経ったような気がした。

彼女は僕のことを心配しているだろうか。おそらく彼女は警察がやって来た時、僕が家を留守にしていたことを喜んでいるだろう。でも、もしかれが予定通りに戻ってこなかったら、彼女はどう思うだろう。

マルクス・ボシャートは二つの願いの狭間にあって引き裂かれる思いだった。彼は夜が明けるやすぐに家路につきたくてたまらなかった。しかし一方、ヨハン・ブロトゥリー、コンラート・グレーベルといった兄弟たちともっと一緒に過ごしたかった。また、コンラートがあの若いフランス人、ド・コクに何と言うか聞いてみたくもあった。

ヨハンは悲しげに首を振った。「あの若者がこれほどたやすく説き伏せられたとは実に嘆かわしいことだ。」彼は低い声で言った。

「ああ、僕もド・コクには本当に失望してしまった。」コンラートは言った。「でもこうなるだろうって予想はしていた。もし彼がチューリッヒに行くなら、ツヴィングリに毒を吹き込まれるだろうって。」

☆☆☆

翌日は金曜日だった。その日は議論を持って始まり、それは一時間ほど続いた。コンラード・グレーベルとヨハン・ブロトゥリーは熱心に、この病んだフランス人に、彼の誤謬を示そうとしていた。

忍耐強く、彼ら二人は自分たちの主張を裏付ける聖書の箇所を示した。マルクスとフェリクスは聞いていた。しかしド・コクが説き伏せられることはなかった。

朝食後、彼は馬に乗り、シャフハウゼンに向かった。彼は依然としてかなり具合が悪かった。

午後、チューリッヒからさらなる知らせが舞い込んできた。今回のこの知らせは、コンラート・グレーベルにとってかなり懸念を起こさせるものだった。公開討論が月曜日に組み込まれ、兄弟たちは洗礼に関する自分たちの見解を述べるように、ということだった。

グレーベルはこの状況をどう捉えるべきか分からなかった。「これが何を意味しているのか僕にはよく分からない。これが洗礼に関する二回目の討論となるけれど、前回の討論の時よりももっと公平に行われることを願うよ。前回、僕たちには自分たちの意見を表明するまともな機会が全く与えられなかったからね。」

マルクスは1月17日の公開討論のことを思い出した。あの討論から四日以内に、新しい教会が生まれたのだった。二か月が経過し、今二回目の討論会が組まれるのだという。どうしてなのか。

「僕は月曜日、チューリッヒで必要とされるだろう。」コンラート・グレーベルは確信を持って言った。「もしかしたら、これこそ――公に神に対する僕たちの信仰を表明し、主の教会のビジョンについて説明するという――僕たちが長い間待ち望んでいたチャンスなのかもしれない。」

グレーベルは深い思案のうちに座っていた。彼は、当局が安全通行権を約束してくれるのだろうかと思っていた。もしそうでなければ、間違いなく、それは自らわなに引っ掛かりに行くようなものだった。いずれにしても、危険は四方八方にあった――そう、それはチューリッヒに限ったものではなかった。

大きな声でグレーベルは言った。「それに、僕は家族が恋しくてたまらない。もし君たちが明日ゾリコンに向かうのなら、僕は君たちとチューリッヒまで同行しようかと思う。」
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第16章 『チューリッヒ丘を駆け抜けた情熱』 

第14章 『チューリッヒ丘を駆け抜けた情熱』 

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