第十九章
   チューリッヒからの罰金徴収人 派遣される


swiss spring village

チューリッヒからの役人二人は、お昼前にゾリコンに到着した。

村の男たちの大部分は、すでにブドウ園に働きに出ていたため、彼らを家庭訪問するには遅すぎた。いや、――役員バッジをつけた――二人は、あえてそんな時間を選んで来たのかもしれなかった。

クンベル氏およびハベルサット氏は全く愉快でない任務を承っていた。そう、彼らはゾリコン村のアナバプテストから罰金を徴収するべく、村に派遣されたのだった。

レグラ・ボシャートは、彼らが自分の家の前を通るのを見たが、うちには立ち寄らなかった。彼女はすぐさま、彼らが誰で、いかなる用向きで村にやって来たのかを察知した。

レグラは、彼らが見えない所まで行ってしまったのを見届けるや、身の回りの物を少しかき集め、裏口からそっと出てゆき、マルクスのいるブドウ園へと急いだ。

役人二人は、まず村役人ハンス・ウェスト宅から始めることにした。息子と共に、ウェスト夫人も洗礼を受けていたのだ。役人たちは自分たちの用向きを、まず村役人に話すのが筋だろうと考えたのだった。

「ハンスはここにおりませんよ。」ウェスト夫人は伝えた。「なんの御用ですか。」

「ご主人はどこにおられますか。」
「チューリッヒに行っております。」

「それではどうしようもありませんな。それじゃあ、ご主人に話すことなく、事を進めなければなりますまい。」

ウェスト夫人は戸口に立っている男たちを抜け目なくじっと見詰め、やがて彼らのやって来た目的を悟った。「なんの御用ですか。」彼女はもう一度尋ねた。

クンベル氏は両手をこすり合わせた。「我々はですね、参事会の指令を受けましてね、未払いの負債を徴収するために村にやって来たんですよ、はい。で、まずお宅から始めようと思いましてね。あなたは再洗礼を受けましたよね。そうですか、ウェスト夫人。」

「罰金は一銀貨、ないしはそれに相当する物です。」ウェスト夫人の答えを待たずに、ハベルサット氏は付け加えた。
近所の戸口からは女や子供たちが顔を突き出して、様子をうかがっていた。

「私には差し上げるお金などありません。」ウェスト夫人は言った。「それに、私は他の人たちが何を差し出すのか、まず、それを見ようと思っています。」

一人の白髪の老女が、よろよろと近寄ってきたかと思うと、甲高く叫んだ。

「あんたがた、何を求めておるのかね。貧乏人から金を取り立てて、金持ちをさらに富ませようっていうわけかい!恥を知れ!あんたたちに言っておくがね、もしあたしがこの派の一員だったら、、、」

と老婆は親指でウェスト夫人を指し、「、、、もしあたしが当事者だったらね、あんたがたが、はたして金を取り立てられるか、今この目でしかと見てやろうってもんだ。あたしら女衆はね、金を支払うべきか否か、今から会合を開くでな。」

クンベル氏は怒る老婆に向かって言った。「お前さんは、騒動事が好きとみえる。そして今回も、何か一つ騒ぎを起こしてやろうっていう魂胆だってこともな。婆さん、発言に気をつけることだ。」

「そうだとも!」老婆は甲高い声で言った。「あたしは、自分の言っていることがちゃんと分かっているよ。そして今にあんたがたも現実を知るだろうってね。」

役人たちは集まってきていた女衆から離れ去った。二人は、――自分たちと怒りたける女達との間に距離を置けるのをこれ幸いに――、別の場所へと早足で歩いていった。次に彼らはブーマン宅に立ち寄った。ハンシィーは家におり、戸口に出てきた。

「ああ、妻は洗礼を受けたよ」と彼は認めた。そして彼は顔を曇らせた。「でも、なんだか、あんたがたは善良で正直な人たちを懲らしめる一方で、犯罪人なんかをそのまま野放しにしているように思うんだが、そうじゃないかい?」

クンベル氏の顔は一瞬赤くなったが、「我々はただ指令に従っているんだ」と反論した。「だから我々を責めないでくれ。」

ハンシィー・ブーマンは家の後方を指さしながら、ハベルサット氏に言った。「ほら。お前さんの小さな缶を裏戸の方に持っていったら、妻が、復活祭の食べ残しの卵をいくらかくれるかもしれん。でも、それだけだ。」そう言うと、彼はピシャリとドアを閉めた。

役人たちは通りを下っていった。彼らは一軒の新しい家の前で足を止め、戸を叩いた。

「ロックマン夫人、いますか。」クンベル氏が尋ねると、家の中から器量良しの若い女が出てきた。
「はい、私ですけど。」

「お宅は、洗礼を受けたかどで、一銀貨の罰金を支払う責務を政府に対して負っています。」クンベル氏は言った。「我々はそれを徴収しに来たのです。」
若い女は、青ざめた。「わ、、、わたしお金がないんです。」彼女は口ごもった。

しかししばらくすると、彼女は落ち着いてきた。「神の御心ならどんな苦しみであっても甘受するつもりでいます」と彼女は言った。「、、、たといあなたがたが、私の体を切り刻んでも、私の魂は守られるでしょう。」

そして彼女は勇気を振り絞って言った。「あなたがたからお金を奪い取るよりは、むしろあなたがたにお金を奪い取られること――これを私は断じて望みます。」

ハベルサット氏はイライラを隠せなかった。「けっこうな事だ。で、現実問題、あんたは払えるのかね、それとも払えないのかね。」

「ちょっと、お待ちください。」こう言って、ロックマン夫人は家の中に入って行ったが、すぐにウールの外套を持って戻ってきた。「これを持っていってください」と彼女は差し出した。

「私に差し上げられるのはこれだけです。本当にこれしかないんです。来年の冬、寒くなる前に、他の外套を買う事ができるといいんですが、、、」

こうして重い外套を折りたたみ、包に入れ、ハベルサット氏はそれをぐいと肩にしょった。クンベル氏はというと、それを記帳していた。そうして彼らは再び歩みを進めた。

次の家の女は差し出すお金も所持品もないと言った。さらに彼女は、「チューリッヒのお偉さま方に、私たちを家から追放する権利はないと思うんです。神様はお偉さま方のためだけじゃなく、私のためにも、この地を創造してくださったはずですから。」

コンラート・ホッティンガーの家には、男たちがいた。役人と話すため、コンラードと息子のルドルフが共々に出てきた。

「どうか今少し辛抱してください。」コンラードは言った。「お金を稼ぎ次第、罰金をお支払いいたします。しかしもし今払わなければならないとなると、家・土地を売り払わなくてはならなくなり、私どもは路頭にさまようことになってしまいます。」

flower and house


クンベル氏とハベルサット氏はこれまでのところ、これといった成果を出していないことに、どんどん気落ちしていった。「リッチマン翁の所をあと一軒回ろうか。」

クンベル氏は言った。「そしてチューリッヒに戻って、上司に報告するとしようと思うんだが。お前さんはどう思うかい。」
「そりぁ、何よりだ。」ハベルサット氏は言った。

リッチマン宅に着くと、老人が玄関口に出てきた。
「息子さんのルドルフがアナバプテストでして、それで、我々は息子さんの罰金徴収に来ました。」クンベル氏は言った。

リッチマンはかなりぶっきらぼうに答えた。「それは息子の問題であって、わしの問題じゃない。彼の尻拭いをするような蓄えは持ち合わせておらん。」

老人は語気を強めた。「しかし、お前さんたちのやっている仕事も気に食わない。お前さんたちに必要なのは、えじきを捕まえる猟犬じゃろう。」

「おい、我々がまるで猟犬のようだって言っているのかい、爺さん。」クンベル氏は言った。朝からずっと抑えに抑えていた、堪忍袋の緒が今や切れかけていた。

「そうだ。お前さんたちは、家々を回り、血の匂いを嗅ぎまわっている。」リッチマン翁は言った。

「お、お前、、、お前、、、」クンベル氏は怒りにわなないた。

ちょうどその時、若い男の子たちが五人、肩をそびやかし、教会堂から丘を駆け下り、二人の役人の所に近づいてきた。若造たちは状況を見てとるや、役人たちをひやかし始めた。

ハベルサット氏はさやから刀剣を抜き、柄をしっかり握りしめた。

若造の一人が叫んだ。「今度は何だ。俺たちをソーセージ入れにぎゅうぎゅう押し込めようっていうのか。そして俺たちをも従わせようっていうわけか。」

「そうだそうだ!」他の子が叫んだ。

「もし俺たちが洗礼を受けようと思った暁には、俺たちをぎゅうぎゅう封じ込めることだな。」そういって若造たちはクックッと笑い、そして腹をよじって笑い始めた。そうして役人たちに向かってあかんベーをしながら、すばやく走り去っていった。

☆☆☆

半時間後、二人の怒れる役人は、チューリッヒへの帰途についていた。彼らの労によって得られたものはほとんどなかった。彼らが今日参事会に提出する報告によって、チューリッヒとゾリコンとの間のいさかいが鎮まる可能性はほとんどないといってよかった。

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第18章 『チューリッヒ丘を駆け抜けた情熱』