第ニ十章
   隠れ家での生活


night sky and stars


マルクスが帰路に着く頃には、夜もとっぷり暮れていた。
教会の奉仕者たちは、ホッティンガー爺さんの所で時を過ごし、教会の問題について話し合っていた。

レグラは家の門先で夫を迎えた。「しぃーっ。」家に近づくと、彼女はささやいた。「一時間くらい前に、来客がいらしたの。彼はとても疲れていてね、小寝台の上で寝ているわ。」

「誰だい。」マルクスは尋ねた。
「コンラート・グレーベルよ。」

「えっ、コンラート!」
「そう、でも彼をそのまま寝かせてちょうだい、マルクス。彼は病気みたい。声を落として、静かにしていましょうね。」

彼らは忍び足で家に入った。マルクスは静かに戸を閉め、かんぬきをした。そして重いブーツを脱ぎ、寝ているコンラードの脇を、音を立てずに、はだしで通り抜け、後方にある居間に妻とともに入っていった。

「ここでなら話せる。」二つの部屋をドアで仕切りながらマルクスは言った。「どの位滞在する予定なのか、コンラートは何か言っていたかい、レグラ。」

「もしできるなら、今夜早速チューリッヒに発つつもりらしいわ。彼はくたくたに疲れ切っていて、休息と食べ物が必要だったのよ。」

「彼は今までどこにいたのだろう。」
「それは訊かなかったわ。」

ボシャート夫妻はそれからもう少し話したが、やがてマルクスは提案した。「僕たちももう休んだ方がよくないかい?」

「でもコンラートがチューリッヒに発つ時に、起きていなかったらどうなるの。」
「それが問題だ。少なくとも僕たちのうち一人は、起きていなくちゃならない。」

しかしちょうどその時、隣の部屋で何か動く物音がした。コンラートが眠りから覚めたのだった。

コンラートは、あたたかくマルクスにあいさつした。「君が新しい任務をなす上で、主が君を力づけてくださるように。」彼は言った。

「うん、重大な責任だってことを自覚している。」マルクスは言った。

「確かにそうだ。でも神様は君を助けてくださるよ。主は必要に応じて、恵みと力を与えてくださる。僕自身、その事を何度も何度も実際に体験してきた。そして特にこの数週間、それによって、僕の信仰は相当に強められたんだ。」

「それについてもっと話してくれるかい、、、今までどこにいたのか、何をしていたのか、、、すごく知りたいよ。」マルクスは嘆願した。

「うん、でもまず、忘れてしまう前に、君のお義兄さんから言伝のことを言っておかなくては。ほら、オベルウィンテルスールに住んでいるお義兄さんだ。」

「アルボガスト・フィンステルバッハだ。あそこに滞在していたの?」

「そう。彼は数週間前に君に会いにゾリコンに来たらしいが、その時、君は留守中だったって言っていた。」
「うん。僕の留守中に、彼がここに来ていたって、レグラが言っていた。」

「アルボガストは信仰に興味を持っているんだ。」
「まだ洗礼は受けていないと思うけど。そうじゃないかな。」

「そう、まだだ。でも洗礼に必要なのは何かと僕に訊いてきたよ。」
「それで彼に何と言ったの。つまり、どういう風に説明したの。」

「正確には覚えていない、、なにしろ長いこと話しあったからね。でも、まず不品行、ギャンブル、お酒、高利貸しの類をやめなければならないことは明確にしておいたつもりだ。」

マルクスはしばらく無言で座っていた。それから言葉を続けた。

「そういったことをやめるのは、アルボガストにはかなり難しいんじゃないかと思う、僕の記憶に誤りがなければ。」

「信じる者にとっては全てが可能だ。」コンラードは御言葉を引用した。

「君はアンソニー・ロゲナッヘルのことを知っているだろう。彼はかつてばくち打ちで陰謀家でもあった。でも今彼は教会の兄弟だ。彼は二十年余前に、けりをつけるために、最初の妻を殺したことさえ告白した。でも、彼にはそういった事をやめたいという意志があった。」

再び、会話の間に間があった。話題を変えようと、マルクスは口を開いた。「今晩早速、チューリッヒに向かうってことをレグラから聞いたんだけど。」

「うん。すぐにでも発とうと思っている。フェリクス・マンツに会わなくちゃならないし、解決しなきゃならない借金のこともある。それに、妻と子供たちに会えたらとも思っている。」

「それじゃあ、フェリクス兄弟は今もチューリッヒにいるってこと?それは確かなの。」マルクスは尋ねた。

「うん、彼は今もあそこにいるらしい。でも彼はうまく姿を消しているんだ。セイント・ガルの教会の成長のことを聞いたら、マンツはさぞかし喜ぶだろう。あそこで起こっていることはすばらしいんだ。」

「僕たちもつい最近、そのことを聞いたよ。でも誰が、奉仕を受け継いでいるの。君が去った後は。」

「何人かすぐれた働き人たちが、あそこの主のブドウ園で働いているんだ。その中でも、特に前途有望な人がいる。エベルリ・ボルトという名の人だ。」
「エベルリ・ボルト?聞いたことがないなあ。」

「彼はシュヴァイツ州の出身だ。――強固なカトリック地域だ。彼はセイント・ガルの兄弟たちのことを耳にして、調べにやって来た。最初は好奇心に駆られてのことだったと思うが。当初、彼は兄弟たちに反対していたんだが、やがて彼自身も洗礼を望むようになった。その後、彼は奉仕者としての按手を受けた。今じゃ、彼はすぐれた説教者だよ。」

「でもセイント・ガル参事会からの反対はないの。」マルクスは疑問に思った。

「これまでのところ、向こうの参事会は兄弟たちを阻止するような動きは全くとっていない。説教も洗礼も公然と行われている。」
「それは奇跡だ!」

「ねえ、マルクス、僕は思うんだ。おそらく、いつの日か、――誰に妨害されることなく、人がみずから聖書を信じ、信仰に生きることを許される日が、ここチューリッヒにおいてさえもやってくるだろう――ってね。」熱を込めてグレーベルは言った。

「でも、それに至る前には、死に至るまでの迫害が起こるんじゃないかと僕は懸念している。ツヴィングリは今まさにそれを準備しているんだ。」

「そしてそうと知りながら、君はあえてチューリッヒに行こうとしている。」

「使徒パウロはエルサレムに行った。――そこで捕えられることはほとんど確実だったにもかかわらず、だ。同じように、僕ももう一度、チューリッヒに行くよう導かれている気がするんだ。神の守りがあるように、どうか君も僕のために祈ってほしい。」

そう言うと、コンラート・グレーベルは出かける支度を始めた。

☆☆☆

2 beautiful village

数週間が過ぎたが、ゾリコンではなにもかも静かだった。

春はその美しさのうちに、地を雨で洗い清め、大地を緑のとばりで被っていた。ツグミやウグイスはブドウの木の間でさえずり、牧草地の上ではヒバリが歌っていた。

牝牛はやわらかい牧草を食べるようにとハンス・ミューラーの果樹園に追い立てられていた。牛の鈴はチリンチリンと甘美な音楽を奏で、その調べは南のそよ風にのって、村の至る所に流れていった。

下の湖岸では漁師たちが忙しく立ち働いていた。彼らはもやの漂う早朝、さっそうと漕ぎだし、日の入りまで帰ってこなかった。帰路を進む、ずっしり荷を積んだ漁船の後ろをカモメの鳴き声が追っていた。

マルクスは日がなブドウ園で働いていた。彼は牛糞のいっぱい積んである重い一輪車を家畜小屋から丘まで押していき、豊富な肥料をブドウの列に沿ってばらまいていった。

家畜小屋が空になると、彼は重い鍬を背負い、肥料を地面に掘り込んでいった。雇い人だったヴァレンティンが去った今となっては、マルクスの仕事は例年以上であった。

他の村人たちは夕暮れまで働いていたが、マルクスは夜の間、新約聖書を読み、学ぶ時を持とうと、仕事を早めに切り上げることがしばしばあった。日が長くなったため、彼は一時間かそこら、灯火なしで読むことができた。

ある晩、マルクスがじっくり聖書を読んでいるところに、若いウリッヒ・ライへナール――グレーベル家にいた時に知り合ったあの牢獄看守――がやって来た。

あの日以降、二人はかなり仲の良い友達になっていた。ウリッヒはすでに数度ボシャート家に来ており、食事を共にしたり、夜泊っていったりしていた。

マルクスはこの友に、兄弟たちの群れに加わるよう幾度も勧めていた。ウリッヒはこの事に関して、いつもいんぎんであったが、実際に一歩を踏み出す用意はまだできていないようだった。「もうちょっと待ってみるつもり」と彼は言うのだった。「いつか僕も加わると思う。でも、まだだめなんだ。」

この日の晩、ウリッヒはすぐに用向きを伝えた。「コンラート・グレーベルに頼まれてここに来たんだ。グレーベルは君に、『近いうちにチューリッヒに来てほしい』と言っている。君と話がしたい、と。」

二人は一時間ほど一緒にいて、多くの事を話し合ったが、その間中、マルクスは考えていた。「いったい何の用があってコンラート・グレーベルは僕に会いたがっているんだろう。」

「もしコンラートにすぐに会えるなら、『御心なら、近いうちにチューリッヒに行くから』と伝えてくれ。」友の帰り際に、マルクスはそう言った。

「伝えとくよ。」ウリッヒ・ライへナールは約束した。

☆☆☆

二日後、マルクスはチューリッヒに向かう途にあった。日中、仕事の用向きがあったのだが、日が暮れるまで待って、それからグレーベルの家に行った。

コンラート・グレーベルは家族と共に家にいたのだが、彼自身は戸口に出てこなかった。バーバラ夫人がマルクスを中に招き入れた。

今回も、前の時と同じように、マルクスはバーバラ夫人の顔に憤りを見た気がした。それはあたかも、暗くなってからしか訪れてこないこういった夫の友人たちを気嫌いしているかのようであった。

コンラートは前ほど青ざめておらず、また病気のようにも見えなかった。家での休養が功をなしたようだった。しかし彼が立ち上がって歩き出す様を見たマルクスは、コンラートの足がいまだに回復していないことを見てとった。

「来てくれてうれしいよ。」コンラードは快活に言った。「ちょっとしたことで誰かの助けを必要としているんだが、いかんせん僕が家から出るのは安全じゃない。それで誰かに代行してもらうように頼む必要があったんだ。」

「もし僕にできることだったら喜んでやるよ。」マルクスは申し出た。

「ありがとう。実は、僕にはいくらか借金があってね、返済できる唯一の道は、自分の書籍を売ることなんだ。」そう言うコンラードの顔は苦しさに歪んだ。

「僕としては本を手放したくない。でも実際のところ、どっちにしたって、あまり活用できない状況に自分は置かれている。チューリッヒは自分にとってもはや安全な場所ではなくなっているからね。」

「僕は何をしたらいいの。」

「自分の書籍の全目録を準備しておいた。この手紙と共に、この目録を持って、アンドレアス・カステルバーガーの所へ行ってほしいんだ。君も知っての通り、彼は書籍商だ。おそらく買い手を見つけてくれるだろう。」

「アンドレアス?あの松葉杖のアンドレアス? 彼ならちょうど今、ゾリコンの僕の爺さんの所にいると思う。」

「僕もそう聞いたんだ。」コンラートは言った。「それで君に手紙を配達してもらおうと思ったんだ。」そう言って彼は、入念に封をされた封筒をマルクスに渡した。

マルクスはそれを鞄の中に入れた。

コンラートは声を落として言った。「帰る前に、君もフェリクス・マンツに会いたいだろう。」そう言って、彼は足をひきずりながら部屋を出て行ったが、五分もしないうちに、当のマンツを連れて戻ってきた。

「フェリクスはここ数週間というもの、僕たちの所にいるんだ。」コンラードは説明した。

「彼は家の裏にある小さな建物の中に潜伏していて、日が暮れてからでなければ、決して外に出てこないんだ。もしマンツがチューリッヒにいることをツヴィングリが知ったなら、彼は一時間以内に番兵をここに送るだろうよ。」

「まあ、その通りだろうね。」フェリクスは言った。

一同は再び腰を下ろしたが、マルクスはフェリクス・マンツの顔をよくよく観察した。ランプの光の下で、マンツは――三か月前に彼がゾリコンを訪れた時より――痩せ、年取ったようにみえた。

「でも、ど、、、どうしてツヴィングリは誰かを送って、君を拘束しに来ないの、コンラート。」マルクスは尋ねた。

「いや、来ないっていう確証はどこにもないよ。実際、警察が明日にも踏み込んでくるかもしれない。いや、それは大いにありうることだ。その意味で、僕たちはリスクを冒しているんだよ。

でも、フェリクスにしても僕にしても、こんなに長くチューリッヒにいるつもりはなかったんだ。実は、日曜の夜に発つ予定だった、でも、、、」とコンラートは中途で言葉を切った。

「ツヴィングリは君が家にいることを知っているのかな。」マルクスはコンラートに訊いた。

「うん、確実に気付いていると思う。でもおそらく彼は、僕が家にいて、彼の邪魔をしない限り、当分の間、僕に手をかけないことにしているんだろう。思うに、今彼は他の問題で手一杯なんだ。」

ちょうどその時、グレーベル夫人が台所から彼を呼んだので、コンラートは部屋を出て行った。

フェリクス・マンツはゾリコンからの知らせや、教会の様子をいろいろ訊いてきた。マルクスは自分の知る限りにおいて精一杯、それらの問いに答えようとした。

――報告のうちいくつかはフェリクスを悲しませるだろうが、その一方で、ゾリコンの教会が強くなり、迫害下にあって確固とした姿勢でいるという報告は、彼に希望を与えるにちがいない――、そう思いながらマルクスは説明をつづけた。

コンラートはなかなか戻ってこなかった。「チューリッヒにどの位滞在する予定なの。」マルクスは尋ねた。「日曜日に発つ予定だったってコンラートが言っていたけど。」

フェリクスの顔は悲しげに曇った。「僕たちは一日一日を死ぬ覚悟で生きているんだ。」彼は説明した。

「僕たちは日曜に発つつもりだった、でもそれがうまくいかなかったんだ。」彼はささやき声で言った。「コンラートの奥さんが原因でね。」

マルクスは驚いた。「えっ、どうして。彼女が何をしたというの。」

「夫に行ってほしくなかったんだ。それで『もし行くなら、マンツを警察に引き渡す』と言って脅迫してきた。でもコンラートはそういう彼女の脅しに注意を払っていなかった。そして予定通り、日曜の夜に出かける用意をしていたんだ。僕は出発の日、市門の外で彼と落ち合うことになっていた。

ところがだ。グレーベル夫人は突然、家の裏口から走り出て行って、コンラートの両親、ヤコブ・グレーベル夫妻の所へ行って、大騒ぎしたんだ。

ようやく騒ぎをおさめ、コンラードが目的の市門に到着した時には、門はすでに閉じられていた。もう一つ別の門の所にも行ったんだが、そこもすでに閉じられていた。そして三番目の門も閉じられているのを目にした時、彼はついにあきらめ、また家に戻ってきたんだ。」

「でも、今でも彼はチューリッヒ市を出ようとしているんでしょう。」

「そう、そして僕もだ。ここは危なすぎる。僕は洗礼に関する文書をしたためているんだが、まだ完成はしていない。チューリッヒより安全な場所がまだどこかにあるだろうと思ってね。」

こうして二人は聖書について語り始めた。マルクスは自分が学ぶ中で、疑問に思っていた聖書箇所についてたくさん質問をした。まもなく、コンラートもそれに加わった。そういうわけで、マルクスが荷物を背負い、ゾリコンの家路についた頃には大分遅い時間になっていた。

門が閉まってなければいいが!とマルクスは思った。

コンラ―との石碑

(↑グレーベル家一階の壁にある石碑:1508-1514年、および1520-1525年、コンラート・グレーベルここに住む。コンラートはフェリクス・マンツと共にアナバプテスト運動を起こした、と書かれている。)


☆☆☆

翌日、マルクスは爺さんの家を訪れたが、びっこの書籍商はまだそこにいた。彼は病床についていたのである。アンドレアス・カステルバーガー書籍商は元々、丈夫なたちではなく、何か月ぶりにチューリッヒから外に出てきたその旅先でまた元の病がぶり返したのであった。

その年の初め、アンドレアスは州から追放処分を受けていたが、病の身で発つことはとうてい不可能であった。そういうわけで、アンドレアスは、もう一カ月の滞在許可延長を参事会に申請したのであった。参事会は快く承諾した。こうして、許可書はその後も数回に渡って延長された。

春の到来と共に、アンドレアスは良好に向かった。彼はゾリコンにいる兄弟たちを訪れたくて仕方がなかった。しかし今、再び病がぶり返し、彼は床についていたのだった。

爺さんは家にいなかった。しかし伯父のハンス・ホッティンガーはそこにいた。アンドレアスは、枕を背もたれに、ハンスと話していた。

アンドレアスはハンス・ホッティンガーという男の正体を知っているのだろうか。マルクスは二人の話の輪に加わったが、この問いが始終彼をわずらわせた。ハンスは再び飲酒を始めていたのだが、その事もアンドレアスは知っているのだろうか。

それにハンスは酔っぱらうと、全く舌に抑制がきかなくなるのだが、アンドレアスは果たしてハンスに言う言葉に気をつけているのだろうか。――もちろん彼はそこら辺のことを承知しているに違いない。

今日のハンスは、機嫌も良く、しらふで、兄弟たちを助けるためになら、どんなことでもしようという気構えでいた。
マルクスはすぐに訪問の用向きを伝えた。

「僕はコンラードからの手紙と彼の書籍目録を持ってきました。手紙の中に用件が書いてあると思います。」マルクスは寝台の上の彼にそれらの書類を手渡した。

アンドレアスは封を切った。「手紙はラテン語で書かれてある」と彼は説明した。「君たち、ラテン語は、読めないだろうねえ。」

「読めません。」マルクスは答えた。
「僕も」とハンスは笑った。

目で文字を追いながら、アンドレアスの舌はかすかに動いていた。初めの内こそ、彼の顔は曇ったが、やがて彼の表情は喜びをたたえ始めた。

読み終えると、アンドレアスはおっとりした優しい声で言った。「おそらく手紙に何と書いてあったか興味があるだろう、マルクス。わざわざ僕の所まで持ってきてくれたのだし、君のために訳してあげてもいいよ。」

マルクスは不安になってきた。アンドレアスに、「ハンスがここにいる。彼に気をつけて」と警告すべきだろうか。

しかし、アンドレアスはすでに読み始めていた。

親愛なるアンドレアス。
家にいる間に、僕の全書籍を目録にしたためておいた。僕が自宅にいて、兄弟たちをここに迎えていることはすでに周知のことだと思う。

しかし、ツヴィングリの手によって投獄されかねない状況にある。そのため、この隠れ家を守るためにも僕は家にこもっている。ヨハネの黙示録によれば、ツヴィングリは彼自身、やがて捕われの身となっていくであろう。

書籍はまとめ売りをすることができるのか、この目録を送る必要があるのか、そこら辺のことについてアドバイスを願う、、、


と、ハンスは、急に話を遮り、質問を差し挟んできた。「グレーベルは、ツヴィングリについて、な、なんと言ったって?捕虜の身になるって?神は彼を罰するのだろうか、アンドレアス?なあ、マルクス?」ハンスは二人を交互にながめた。彼の顔は紅潮し、声は興奮で上ずっていた。

アンドレアスは考え深げに口をすぼめた。

「コンラードは、『黙示録によれば、ツヴィングリ自身、やがて捕われの身になる』と言っている。コンラートが何を言わんとしているのか、どの聖書箇所から引いているのかおおよそ見当はつくんだが、正確な聖句を調べてみなきゃならん。」

ハンス・ホッテティンガーは立ち上がり、ますます興奮してきていた。

「ツヴィングリが捕囚の身に!そりゃ、すごい。そうなりゃ、フェリクス・マンツがあんなに長い間牢に入れられ、どんなひどい状態にあったか、奴はついに思い知るだろう。僕だって牢にいた、、、そしてその実態を知っている。ツヴィングリ卿にはいい報いとなることだろう、、、」

「ハンス伯父さん。」マルクスは呼びかけた。彼は自分が伯父をたしなめる必要があると感じたが、アンドレアスがなんとかしてくれるだろうとばかり思っていた。しかしアンドレアスはまた手紙の方に戻ってしまっていた。

「ハンス伯父さん。」マルクスは続けて言った。「誰かに――たとえそれが自分たちを迫害する敵であっても――悪が降りかかるよう願うのはキリスト者らしくないです。僕たちは自らの敵を愛し、彼らによくしてあげるべきではないですか。」

アンドレアスは話を聞こうと頭を上げた。「その通りだ、マルクス。」彼は言った。

「『もしあなたの敵が飢えたなら、彼に食べさせなさい。渇いたなら、飲ませなさい。そうすることによって、あなたは彼の頭に燃える炭火を積むことになる』と聖書にも書いてある。」

「問題はだ」とハンスは言葉を挟んだ。

「ツヴィングリは飢えてもなく、渇いてもいないってことだ。むしろ、燃える炭火の一杯詰まった帽子なんかで奴を痛い目にあわせてやる方が効果的だと思うんだがな。」そうやって話す彼の目は異様にギラギラ光っていた。「ひとたび奴が牢に入ったなら、僕は暖炉から炭火をかき集めて、それから奴に会いに行くぞ。」

「全く誤解しています、伯父さん。」――アンドレアスと二人きりで話せる時まで手紙をポケットにしまっておくべきだったとひどく後悔しながら、マルクスは訴えた。

「気にするな、マルクス。」ハンスは、年若い甥っ子を見下ろしながら答えた。「もしかしたら、お前の方こそ間違っているのかもしれないぞ。まあ、それはそうと、手紙の続きを聞こうじゃないか。」

「今はやめとこう」と病人の優しい声が返ってきた。

彼はきっぱりと手紙を折りたたみ、枕の下に置いた。それからマルクスの方に目配せすると、「ブドウの栽培はうまくいっているかい」と話題を切り替えた。
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第21章 『チューリッヒ丘を駆け抜けた情熱』 

第19章 『チューリッヒ丘を駆け抜けた情熱』 

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