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ドンドンと叩きつけるような音が夜通し聞こえ、闇が、まるで感触のある生き物のように私の周りで震えていました。
寝付けず、横たわったまま私は目を開けていました。――すると、目の前に次のような幻を見たのです。
☆☆
(幻の中で)私は草におおわれた崖に立っていました。
と、足元にある隙間が崩れ、それは無限大の大きさになりました。
下を見ましたが、底はみえず、そこにあるのはただ雲のような形をし、黒々と恐ろしくとぐろを巻いた窪みでした。
巨大な影に覆われた穴、計り知れない深淵。
この深さにめまいを覚え、私は後ずさりしました。
☆☆
すると、一群の人々が列をなして崖の方に向かってくるのが見えました。
乳飲み子を抱え、脇には小さな子を連れた一人の女性がいました。彼女は絶壁すれすれの所まで来ていました。
しかし、なんと彼女は盲目だったのです。
こうして何も見えないまま彼女は次の一歩を踏み出し、、そしてああ、崖から真っ逆さまに落ちていきました。――子ども達もろともに、叫び声を上げながら。
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見ると、あらゆる方角から怒涛のように人がなだれ込んできます。
皆一様に盲目でした。全く目の見えない状態にありました。
そして誰もが皆、絶壁のへりに直進して行くのです。
そして突如として落下が始まるや、彼らはかん高い悲鳴を上げます。――手足をばたつかせ、むなしく宙をかきながら。
しかしある人たちは諦観したかのように全くの無言のまま、音もなく落ちて行きました。
☆☆
私は苦悶の内に思いました。「なぜ崖のところで誰も彼らを止めないのだろう。」
私はそこに向かおうとしました。でもなぜか足が地に張り付いたようになって動かないのです。
そして声をふり絞り叫ぼうとしても、ささやき声しか出てこないのです。
☆☆
崖の方をよく見ると、そこには間隔を置いて、何人かの見張りが立っていました。
しかしああ、その間隔はあまりに大きいのです。
彼らの間には、防備のされていない広大な領域そして隔たりがありました。
そしてその隔たりのところから人々が――その盲目さゆえに、そして事前に警告してくれる人が皆無であったために――次々と落ちて行っていました。
崖に生えている緑草は血染めの赤のようであり、深淵は地獄の門の如く、その巨大な口を開けているかのようにみえました。
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その時、のどかな一枚の絵のような光景が目に入ってきました。
一群の人々が木々の下にいます。彼らは深淵の方に背を向け、ヒナギクの花輪を編んでいました。
時折、崖の方からかん高い、つんざくような叫び声が聞こえてきます。でもそれはこの人々にとっては迷惑な騒音にすぎないようでした。
そしていざその中の誰かが立ち上がり、崖の方にいる人々の救援に向かおうとすると、周りの皆はその人を引きずり下ろすようにして言いました。
「何を一人で興奮しているのです?『行きなさい』という明確な召命をいただくまでは、ここでじっと待たなければならないのですよ!自分の花輪作りだってまだ終わっていないじゃありませんか。
ここで自分のやるべき事をほったらかしにして、私たちの肩にそれを負わせようと言うのですか?そういうのは余りにも自己中心的だと思いますよ。」
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向こうの方には別のグループもいました。
この人々は、より多くの見張り人を送り出したいと強く願っていました。
しかし行くことを志願する人はほとんどおらず、その結果、崖ぞいの何十キロ、何百キロという距離の間に、一人の見張り人さえ見当たらないという状態が生じていました。
☆☆
年若い娘が見張りの場所に一人で立っていました。
手を振りながら「崖の方に行かないでください」と人々に嘆願しています。
しかし彼女の母親や親せきがこの娘を呼び、「安息年なのだからこちらに戻って来なければなりません。これはれっきとしたルールなのですからね。守らなければなりませんよ。」と説得しているのです。
こうして彼女は少しの間休養を取るべく母親たちの所に戻って行きました。
しかし、彼女の持ち場を代わりに受け持つ人は誰も遣わされませんでした。
そしてそうする間にも、魂は怒涛のように、次から次へと下に落ちていきました。
☆☆
ある時には、一人の子どもが、深淵すれすれの所にある草の根を必死につかみつつ、宙にぶらさがっていました。
そして助けを求め、死にもの狂いで叫んでいました。――しかしその声は誰の耳にも届いていないようでした。
そうこうするうち、草の根はついに切れ、泣き声と共にその子は落ちていきました。
――小さな手に、切り裂けた根っこの塊りを今もなお握りしめつつ。
自分の持ち場に戻りたいと願っていた先ほどの娘は、その小さな悲鳴を聞いたように思いました。
そしてすぐに起き上がると、声のする方向へ駆け出していこうとしました。
しかし周りにいる人々は彼女を非難し言いました。
「もうそこに行く必要はないんです。隔たりはね、もうちゃんと管理されているんですから!」
そして彼らは讃美歌を歌い始めました。
☆☆
賛美の合間に、向こうからまた別の声が聞こえてきました。
その声は、――哀咽のしたたりの中から絞り出された――何百万もの傷ついた心の痛みのような音でした。
そして大いなる闇の恐怖が私を襲いました。なぜなら、私はそれが何であるか知っていたからです。
そう、それは血の叫びでした。
☆☆
すると雷鳴のような音が鳴り響きました。主の声でした。
「お前は何をしたのか。お前の弟の血の声が土の中からわたしに叫んでいる。」
ドンドンと叩きつけるような音は今も激しく鳴り、暗闇は今も私の周りで震えていました。
そして門のすぐ外側からは、悪魔の踊り子たちのわめき声、そして悪霊にとりつかれた者たちのおぞましい金切り声が聞こえてくるのです。
「それがいったい何だというのです?これは今までも起こってきたことだし、これからも同じように続いていくものなのです。それなのに、あなたは何を一人で大騒ぎしているのですか?」
――ああ神よ、私たちをお赦しください!
私たちの無感覚、冷淡さを。
そして私たちの罪を。
Amy Carmichael, Thy Brother’s Blood Crieth
私訳
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